無名草子 十三 かくれみの

 十三 かくれみの


 又「『かくれみの』こそめづらしき事にとりかゝりて、見どころありぬべきものの、餘りにもさらで〔も〕ありぬべき事多く、言葉遣ひいたく古めかしく、歌などわろければにや、ひとてにいはるゝ『とりかへばや』には殊の外におされて、今はいと見る人少きものにて侍る。あはれにも〔をかしくも〕めづらしくも、樣々見どころありぬべき事に思ひよりて、無下にさせる事もなきこそくちをしけれ。『今とりかへばや』とて、いといたき物、今の世に出で來たるやうに、『今かくれみの』といふものをし出だす人の侍れかし。今の世には見どころありて、し出づる人もありなんかし。無下にこの頃となりて出で來るとて、少々見侍りしは古きものどもよりは、なかなか心ありて見え侍りしか。」などいへば、


 <現代語訳>


 十三 かくれみの


 また「『かくれみの』(現代には伝えられていない物語)は新鮮な題材を取り扱っていて、きっと読まれる価値があるでしょうけれど、そんな風にせずともと思われる箇所が余りに多く、言葉遣いはひどく古めかしくて、歌など良くないからでしょうか、話に聞く『とりかへばや』には殊の外おされて、今はひどく読む人も少なくなっております。趣深さや面白さ新鮮さなど、様々にきっと読まれる価値があることと心ひかれるのですが、まったく読まれることがないのが残念でなりません。『今とりかへばや』といった、感に堪えぬ読み物が、今の世に出てきたように、『今かくれみの』というものを書き始める人がいらして下さらないかしら。今の世には読まれる価値があるのですから、本当に書く人がいらしてほしいものです。やたらにこの頃になって出てきたと言われて、少々読んでみた古いものより、かえって風流ですから読みたいものです。」などと言うと、