河井酔茗/ゆずり葉

子供たちよ。
これはゆずり葉の木です。
このゆずり葉は
新しい葉が出来ると
入り代わって古い葉が落ちてしまうのです。

こんなに厚い葉
こんなに大きい葉でも
新しい葉が出来ると無造作に落ちる
新しい葉にいのちをゆずって──

子供たちよ
お前たちは何をほしがらないでも
すべてのものがお前たちにゆずられるのです
太陽のめぐるかぎり
ゆずられるものは絶えません。

かがやける大都会も
そっくりお前たちがゆずり受けるのです。
読みきれないほどの書物も
幸福なる子供たちよ
お前たちの手はまだ小さいけれど──。

世のお父さん、お母さんたちは
何一つ持ってゆかない。
みんなお前たちにゆずってゆくために
いのちあるもの、よいもの、美しいものを、
一生懸命に造っています。

今、お前たちは気が付かないけれど
ひとりでにいのちは延びる。
鳥のようにうたい、花のように笑っている間に
気が付いてきます。

そしたら子供たちよ。
もう一度ゆずり葉の木の下に立って
ゆずり葉を見るときが来るでしょう。



時として──。
わたしたちは時として、過去に対して恩知らずのフリーライダーであり、未来に対して資源を食い尽くす簒奪者であるような錯覚を抱く。
その錯覚は、わたしたちが受益者であり贈り手であることの裏返しでしかないのだけれど。


「人口減少社会」とは、作り手として生まれたわたしたちが、一人一人により多くの遺産を残すために選ばれた未来である。


それでも人は、いつまでも満たされはしないのだろう。