北方領土について

2月18日に行われた日露首脳会談に関して、麻生首相が「北方四島の全島返還にこだわらないとの誤解を招きかねない表現をした」ことが物議を醸していた。
醸していた、と過去形にせざるを得ないのは、わずかに10日ほど経っただけの27日現在、ニュースから北方領土の「ほ」の音も聞こえなくなってしまったからである。
色々と思うことがあるので、順を追って記していこう。
まず、麻生首相の発言である。
発言そのものは、「いつまでも向こうが2、こっちが4では解決しない」という内容である。
ロシアは二島返還ならば応じる構えである。(へー、そうなんだ。)
日本外務省は四島全島の返還を断固主張している。
交渉は両者の主張と軌を同じくして平行線を辿り、解決の目処は立っていない。
どこにも問題はない。
どこからどう見ても間然するところの無い事実である(ロシアが二島なら返すと言ったのであれば)。
私がその発言に対して応答するとしたら、「まあそうでしょうね」くらいのことしか言わない。
だが、この発言は「北方四島の全島返還にこだわらないとの誤解を招きかねない表現」としてしか報道されなかった。
まるで、国民全員が同じ誤解を共有してくれることを願うかのように。
根底に流れているのは、外務省の方針と元居住者団体代表者の声である。
一部国民の声ではあっても、国民の総意ではない。
無論、報道機関といえど有限の放送時間と有限の視点をもって語ることしかできない以上、そこに絶対客観を求めることができないのは自明の理である。
だからと言って、仮にも「国民の意見」として徴される意見に「ふつうのひと」の言葉が一つもない、というのは腑に落ちない。
そこで私としては、「ふつうのひと」として、また一国民として、ここに一つの意見を述べたいと思うに至ったのである。


正直に言おう。
どちらでも構わない。
歯舞と色丹だけ戻ってきても、国後と択捉も一緒でも、どちらでも構わない。
あるかどうかも定かでない地下資源に固執するのはみっともないことだ。
漁業権に問題があるというのなら、共有漁場にでもすればいい。
そもそも、北方領土問題が解決しなければ平和条約の締結は不可能だという前提がおかしい。
多少問題があっても全体としては仲良くやりましょうね、と約束するくらいがなんだというのだ。
100パーセント問題が解決されなければ結婚しないカップルは、一生結婚しない。
同じことじゃないか。
麻生首相
国民はあなたを支持してない。
あなたが支持率を気にしてることは知ってる。
自民党の党利党略で身動きが取れなくなっていることもわかってる。
あなたがこのタイミングで領土問題の解決に向けて積極的な姿勢を見せたのも、少しでも次の選挙を有利にするためだってことも。
あなた自身が一番よく知ってるはずだ、これは猿芝居だって。
でも、猿芝居を本格的な舞台演劇に見せるのがプロの役者の仕事だ。
政治家がスピーチライターを抱えた役者でしかないことは、もうみんな知ってる。(レーガンアメリカ大統領になった時からね。)
もっとうまくやってよ。
メディアが捏造した国民なんか信じる必要ない。
僕はあなたの解決策でも構わないと思ってるよ。
ま、だからといって次の選挙で自民党に投票するかと言われれば微妙なんだけどさw
戦争を口にするほどバカじゃないってわかっただけでもホッとしてる。
外務省の方々。
国益って概念をカネの話だけに落とし込むのはやめてくれないかな。
領土も地下資源も漁業権も、別にこだわりゃしないよ。
もういいじゃないか。
64年もロシアが実効支配してるんだ。
最初の入植者には子供も孫もいるよ。
なに、それじゃ向こうの思う壺だって?
別にいいんじゃない?
だって、64年間も問題を解決できなかったんでしょ?
64歳以下の人にとって、北方領土が日本の国土だったことなんて一度も無いんだよ?
別にあなたたちが無能だなんて思わない。
あなたたちの先輩が誰一人解決できなかった問題を、自分たちなら解決できるなんて思わないほうがいいよ。
「弱腰外交」って叩かれるのが怖い?
なら、こんな演説を用意するのはどうかな。
「日本国は、北方領土における主権を放棄する決断をいたしました。(主権放棄の部分は、二島でも面積の半分でも一島でもいい。)それはひとえに、北方領土に生まれ、育ち、働き、家庭を作って、子供を育て、死んでいったロシア人がいたからです。北方領土には、すでにそこを父祖の土地とし、故郷とする大勢の人々がいます。かつてそこにいたのは、日本人でした。ですが彼らは故郷を離れて64年経ち、新たな土地を得て自立しています。故郷を奪われ、生活の手段を奪われた、その同じ悲しみを、それが他国の人々だからといって、味わわせたくないと思っています。日本とロシアの国家的な争いの狭間で引き裂かれる人々を、再び生み出したくないと思っています。憎しみの連鎖を止めたいと思っています。日本政府は国民の代表として、また平和憲法を擁する国の統治機関として、国民の意見を尊重するものであります。」
これなら、竹島尖閣諸島まで雪崩れる心配もないと思うんだよね。
ロシアにも「負債感」を与えることができると思う。
これじゃダメかな?
僕はこれでも、外務省のこれまでの働きを否定してるわけじゃないんだ。
1945年に日本が敗戦してから、サンフランシスコ講和条約が結ばれる1951年までの間に、すでに朝鮮戦争は始まっていた。
東西冷戦と、数々の代理戦争は始まっていたよね。
そんな中でも、日本が代理戦争の舞台にならないギリギリのラインで、北方領土は日本固有の領土だって主張を繰り広げてきたんでしょ?
だから日本は朝鮮にも、ベトナムにも、アフガニスタンにも、キューバにも、グルジアにもならなかった。
僕はこれで十分だと思ってる。
頑張ったな、と思ってる。
それじゃダメなのかな。
元島民の方々。
僕がどうして嘘をついたのかは、上の文章を読んでくれれば理解できると思う。
あなたたちに僕の嘘を本当にして欲しいからだ。
僕たちはイスラエルを知っている。
僕たちはアイヌを知っている。
それが僕の嘘の理由のすべてだ。
土に人の魂は宿らない。
魂が宿るのは、あなたたちの心の中だけだ。
メドベージェフ大統領。
プーチン憲法を変えてまで三選を果たしそうになった時、世界中の人々がロシアは共産主義に戻るどころか、独裁国家に成り下がりそうな気配を感じていた。
あなたが大統領になった今でも、あなたはプーチンの傀儡であるとしか思われていない。
アメリカの没落が明らかになった今、ロシアは世界最大の帝国主義国家だと誰もが思ってる。
ねえ、いつまでプーチンの言いなりになってるつもりなの?
グルジアの件でロシアのイメージはますます悪くなってる。
資源ナショナリズムの評判だって最悪だ。
北極の資源を独占しようとしたのだって、ロシアの強欲ここに極まれりって感じだったよ。
そういえば、芸術家たちが体制支持を打ち出したなんてプロパガンダもまたやったんでしょ?(すぐに嘘だってバレたけど。)
日本人がこんなこと言えた義理じゃないのはわかってる。
日本とロシアの間には不幸な歴史が積み重なってるしね。
大津事件もあったし、日露戦争もあったし、ロシア革命を裏から煽ったし、シベリア出兵もしたし、第二次世界大戦ではシベリア抑留と北方領土占領もあった。日本はずっとアメリカの同盟国だったし、ソヴィエトを悪く言うのを邪魔するひとなんてどこにもいなかったよ。
でも、僕はロシアって国が嫌いじゃないんだ。
僕の本棚にはドストエフスキートルストイツルゲーネフゴーゴリプーシキンゴンチャロフの作品が並んでる。(わかってる、ソルジェニーツィンの話はしないよ。)
CDの棚にはチャイコフスキーラフマニノフもある。
だからさ、いつまでも悪役でいてほしくないんだよ。
北方領土問題って、いいチャンスだと思うんだよね。
ロシアが拡大志向を止めて、国際協調に本格的に乗り出したってイメージを全世界に発信する、さ。
あなたの任期が終わってプーチンがまた大統領になったりしたら、もう二度とこんなチャンスは訪れないと思うんだけどね。
メディアの方々。
伝えたいことは二つある。
僕たちは自分の意志で政治家を選びたいと思ってる。
あなたたちの意見に賛同したり反対したり、とにかく扇動されて投票したいなんて思ってないんだ。
確かに、権力の監視はあなたたちの重要な役割の一つだ。
あなたたちが報道してくれなければ政治家や官僚の腐敗を知ることはできなかったろう。
でも、権力叩きをすれば視聴者が喜ぶなんて思わないでくれ。
政治家を選んだのは僕たちだ。
バカな政治家を生むのはバカな国民だってことくらい承知してる。
組織票だけが政治家を選んだんじゃない。
公正な判断材料をくれ。
扇情報道はやめてくれ。
解釈の手垢をつけないでくれ。
それが一つだ。
もう一つ、あなたたちの報道姿勢に関して言いたいことがある。
信頼感情を醸成するためには、「一貫性」が不可欠であることには同意してくれると思う。
ではあなたたちはどうして一貫性を持って報道しないのか?
最近で言えば、小泉さんに関して極めて顕著な例があった。
小泉さんが、麻生首相の「郵政民営化には賛成じゃなかった」という発言に対して、「あきれちゃう」と感想を述べた。
僕はそのニュースを何度も見た。
何日にも渡って報道されていた。
でも、同じ小泉さんの発言でも、yahoo!トピックスで検索するまでニュースでは見たことのなかったものがある。
麻生首相北方領土に関しての発言をしたのが2月19日。
小泉さんはその前日の18日に、麻生首相とほとんど同じ主旨の発言をしている。
毎日新聞によって配信されたその記事には、小泉さんがロシア側議員の「面積等分の分割案」に関心を示し、「両国が妥当だと思える線でなければ、まとまらない」と発言したとあった。
麻生首相の発言とほぼ同じ内容だ。
小泉さんが「あきれちゃう」と麻生首相を批判すれば大量に報道する。
小泉さんが麻生首相と同じ主旨の発言をすれば黙殺する。
こんな小細工をするから、メディアが情報をコントロールして国民を意のままにしようと目論んでいると思われるんだよ。
北方領土に関するニュースがすぐに収束したのも、理由は明白だ。
あまり「外」を意識させると、「内」が結束してしまう恐れがあるから。
麻生首相の意見で問題ないじゃないか、という「普通の」意見が出てくる可能性に気づいたから。
馬鹿げてる。
権力を監視するなら監視してくれ。
自らの権力性を無視するのはやめてくれ。
記者クラブ」なんて解散しちまえよ。
でなければ、あなたたちの信頼はますます失われていく。
僕はもうほとんどあなたたちを信用しなくなってしまった。
でも、あなたたちから情報が入らなくなれば、困るのは僕自身だ。
しっかりしてくれ。
頼らせてくれ。
僕の言いたいことは以上だ。


……うーむ、言いたいことが溜まってると「僕」が顔を出してしまうな。