日記5日分

11月8日から12日まで。


8日の月曜日は昼過ぎに起床。
夕方から仕事に出掛ける。
問題演習をやっていたら(題材は安岡章太郎の『アメリカ感傷旅行』)、僕が出した答えと問題集付属の解答解説に記載されていた答えが食い違っていたことが生徒側の指摘で判明する。
まずは問題演習中に解答解説を参照していることを咎め、それからソクラテスの「書字に対する問題提起」の内容(1.書かれた文字は「あまりにも真実らしく見えすぎる」ため読者を思考停止に導く。2.文字は記憶することの必然性を奪う。)を紹介しつつ、解答解説にも正解が載っていないケースがあることを、ついつい言ってしまう。(今手元の『プルーストイカ』で調べ直したら、ソクラテスが挙げた問題点にはもう一つありました。3.文字は「それを読むのに相応しくない者」にまで言葉を届けてしまう、というのがそれです。これはいかにも僕の記憶から脱落しそうな内容です。)
僕も本当に弁護のしようのない間違いを仕出かすことはあるけれど、たまたまそうではなかったので助かった。
ついでに僕(と一人の生徒)が答えとして書いたのが「ニューヨークの美術館に入っても街の景観がまったく違って見えない」ことに安岡が不平を鳴らしている部分だったので、ロシア・アバンギャルドとシクロフスキーと「自動化」と「異化」の話をしつつ「こっちの答えの方が、『大事』なの」と完全な上から目線で数々の暴言を交えつつ語る。
「毎日狭い範囲で決まりきったことを繰り返していると、人はだんだん飽きてきます。その結果取る行動はだいたい3種類ぐらいに大別できて、一つが『その範囲から出て行くこと』、もう一つが『そこを壊すこと』、最後が『頻繁に中身を入れ替えること』です。でもこの異化というのが効果的に機能していると、人がなかなか飽きなくなって、社会が不安定化するのを防げるのね。」
という、人の受け売りとその場の思いつきのミクスチャーみたいな話を、生徒達は「そういうもんなの?」という顔つきで聴いていた。
なんだかやたらと盛り上がった授業でした。
授業後のミーティングを終えて帰宅。
煮豚と煮卵を仕込む。
湯豆腐を食べたような気がしないでもない。


9日の火曜日は起きたら昼の二時半を過ぎていたのに奥さんが部屋にいてビックリ。どうも体調が悪くて会社を休んだらしい。
ぼーっとしてたらあっという間に仕事に行く時間になって、不機嫌を撒き散らしつつ仕度して職場へ。
帰ってきたあたりでようやく目が覚めてきて、珍しく夜中に答案の採点をする。
終わってから、「富山黒醤油ラーメン」を食べる。
真っ黒なスープなのだけど、見た目からは想像もつかないような調和の取れた味。
「なんか最近、しょっぱかったり、トンコツトンコツしてたり、カツオカツオしてたりする主張の強すぎるラーメンが多いけど、これはいいね。」
「ホントだねえ。」
なんていう会話を交しつつ二人で食べる。
やはり煮豚は肩ロースに限る、ということも再確認した。
それ以外では、ぜんたいにポカンとした一日だった印象。
あ、この日か、深夜にyoutube宇多田ヒカル聴きまくったのは。
サガンの小説みたいな新曲のPV、めちゃカワイイです。


10日の水曜日はなかなか早起きだった。
サミットで食料を大量購入。
しばらく切らしていた冷凍うどんを10食分、5割引きで買えてホクホクする。
かつおがグラム98円だったので久々にさくで買った。
夕方から仕事へ。
王子駅で電車を待っているときに、背後から突然女の子のかすかな歌声が聞こえてきてドキリとする。
高いハスキーな声で、危うい綱渡りのような震えがあって、でも音程は確かで、内耳をくすぐられるような快感が背筋を走る。
それとなく振り返ると、女子高生の二人組が立っていた。
電車に乗り込んでからも彼女達は真後ろにいて、片方の女の子の持っているカバンがずっと僕の背中に当たっている。
それが電車の揺れに合わせてスーツを擦る。
引き金を引かれたら終わりだ。
ひそひそと、話している内容までは聞き取れない音量で、クスクス笑いを漏らしながら、お喋りが続く。
僕はむしろ聞かされているのに疚しい。
途中の駅で、ああ降りるんだ助かった、と思った瞬間に、
「生理痛マジヤバい」
耳元で囁かれた。
……完璧だ、パーフェクトだよ。
未熟な美を持て余した少女の、残酷と、権力と、脆さと、恐れと、好奇心。
あれこれ総動員して、男達を駆り立てて狩り立ててきたんだ。
僕は30過ぎても中二病が治ってないんだけど、ってさすがにそれがすぐに見抜けるほどは年季が入ってないか。
ダメだよ、イタズラしちゃ。
僕みたいなのはコロッといっちゃうから。
仕事は特に事もなし。
帰宅途中で、奥さんからのメールに気付く。
「重大な相談があります」とある。
今日は女難だ、と思いつつとぼとぼ帰る。
かつおメインの遅い夕食を取りながら奥さんが切り出したのは、「大連に行きませんか」という話だった。
今やっているITの仕事で、拠点を移すことになったらしい。
いいよー、と即答する。
立ち塞がる困難を想像して、夫婦揃ってはしゃぎまくってしまった。


11日の木曜日は前日の興奮を引きずる形で早起き。
奥さんを送り出してからいろいろと調べて、大連て大都市なんだ、とか、日本人結構いるみたいだな、とか、空港で本を没収されたりしちゃうらしい、なんてことを知る。
奥さんも何度か異動や昇進の話が立ち消えになったりしているので、正式な辞令が出るまではあまり先走らないほうが良さそうなんだけど。
ついでに「1920−30年代中国におけるドストエフスキー受容に魯迅が果たした役割」についての論文とかいう余計なものまで読んでしまった。
主要作品のほとんどは中国でも翻訳されていたみたいだけど、論文のなかで『悪霊』に触れられていなかったのが少し気になる。
月曜日の授業で適当に話したことを一応確認してみたら、どうもシクロフスキーはあんなことは言ってなかったらしい。
しかもアバンギャルドじゃなくてフォルマリスムじゃないか。
でもフォルマリスムについて読んでいるうちに、「あ、『コンテンツじゃない』って盛んに言ってるのは、バフチンの話をさせようとしてたのか」ということに気付く(たぶん勘違い)。
その前に魯迅も『阿Q正伝』くらいは読みたい。
うー、読みたい本リストがまた長くなってしまった。
夕方から仕事へ。
授業が終わってからテストの採点をしていたら、またずいぶん遅くなってしまった。
帰宅して、冷奴と水菜とかつおの残りともやしと竹輪でおつまみを用意して、『戦場でワルツを』を見終わる前に寝る時間に。
奥さんが「これは最後まで観たい」と言うので、もう一週間借りることにして、就寝。
ちなみにこの日は朝食がお茶漬けで昼前に金沢土産の「チャンピオンカレー」を食べて仕事前にそばを食べて帰ってきてからたくさんつまみを食べたので、一日四食でした。


12日の金曜日も8時くらいに起きて、コーヒー淹れて奥さんを送り出してサイトを巡回して、午前中から『スティング』を観る。
最後の最後まで騙されっぱなし。
めちゃくちゃ面白かった。
ロバート・レッドフォードブラッド・ピットが登場した時期に「自分の若い頃を見るようだ」と言ったらしい、という話は聞いたことがあったんだけど、本当にソックリで驚いた。
ポール・ニューマンは相変わらずニヤニヤしている。
昼からはいつもどおりの金曜日。
油そば美味し。
『スティング』だけ返して、『日曜日には鼠を殺せ』を借りる。
ブラジル300g購入。
ドトール網野善彦の続き。
タバコをカートンで買って帰る。
すこし転寝。
今週のジャンプを今頃読んで、WEBをフラフラして、帰ってきた奥さんとお喋りして、ブログを書き終わったら3時を過ぎてました。