大江健三郎/案内人

イーヨーとマーちゃんとオーちゃんと重藤さん夫妻でタルコフスキーの「ストーカー」についてあれこれあれこれ語る話。その話が終わった後、イーヨーとマーちゃんとで電車に乗ろうとして、イーヨーが突然発作を起こす。マーちゃんはイーヨーを必死で支えて……。


イーヨーがマーちゃんを守ろうとする場面は出てくるけれど、この短篇でその描写は十分でない。というよりも、この「静かな生活」連作のなかで描写は全般的にごく物足りない印象を残す。単行本に収録されているのは「静かな生活」「この惑星の棄て子」「案内人(ストーカー)」「自動人形の悪夢」「小説の悲しみ」「家としての日記」の計7篇。そして私が論じている自選短篇には「静かな生活」と「案内人(ストーカー)」の2篇だけが採録されている。


このふたつじゃないでしょう、というのが率直な感想。


この感想を理解してもらうには、伊丹十三が監督した「静かな生活」を見てもらわないといけない。でも僕がタルコフスキーの「ストーカー」について、小説のなかに登場する重藤さん同様
 ──自分で映画を見てからでなくては、なんともいえないなあ。
としか言えないんだから、僕がどれだけ「静かな生活」について熱く語ったところで同じ結果に終わるだろうと思う。


僕にとっては忘れられない映画です。


この短篇そのものについてはあまり語るところがない。もう十分に語ったことの繰り返し以上の内容にはならないから。