無名草子四 夢

四 夢


 又、「何のすぢと定めて、いみじといふべきにもあらず、あだにはかなきことにいひならはしてあれど、夢こそあはれにいみじく覺ゆれ。遙かにあと絶えにし仲なれど、夢には関守も強からで、もと来し道もたちかへること多かり。別れにし昔の人もありしながらの面影をさだかに見ることは、たゞこの道ばかり〔こそ〕侍れ。上東門院の『今はなきねの夢ならで』と詠ませ給へるも、いとこそあはれに侍れな。」といふ人あり。


<現代語訳>


四 夢


 また、「なぜか素晴らしいと言ってはならず、むなしく取るに足らぬものということになっているのですけれど、夢は情趣に富んで素晴らしいものだと思います。ずっと昔に付き合っていた人に、夢の番人はそっと会わせてくれたりもして。死に別れた昔の人の、若々しいころの面影をそのままに見せてくれるものなんて、他にはありません。上東門院さまが『今はなきねの夢ならで』とお読みになったのも、ほんとうに風雅でいらっしゃいましたね。」と言う人がいる。