2008-01-01から1年間の記事一覧

太宰治/トカトントン

トカトントン。久しぶりに読み返した卒論には、ところどころ主査だった井桁先生の鉛筆の書き込みがあって、その中にこの一語があった。トカトントン。はてこれは一体どのような意図をもって書き込まれた一語であったか。そのような疑義は卒論を返却されたば…

タイトルリレー

『見るまえに跳べ』大江健三郎 ↓『飛ぶのが怖い』エリカ・ジョング 『貧しき人々』ドストエフスキー ↓『成り上がり』矢沢永吉 『何をなすべきか』チェルヌイシェフスキー ↓『にんじん』ルナール

黒い花火

灰色の作業着を着た初老の男が、プラスチック様の赤い大きなものを持って歩道をよたよたと、車道側に向かって横切っていた。その赤い何かは、親子用の自転車の、ハンドルとサドルの間に設置される子供用の椅子のように見えた。奇妙な組み合わせだった。男の…

幻の魚

「自分の築き上げた財産に誇りを持っているのよ、彼らは」 そう言われてはたと動きが止まってしまった。 だからやたらな人には譲りたくないし、そのためにも自分の子供は必要なの。彼女は静かな声で続けて、彼女が静かな声で続けたからこそ、僕はそれが冷徹…

海辺で

海岸線から垂直に泳いでいるとどこへ向かっているのかどこを泳いでいるのか何をしているのか僕が水なのか水が僕なのかよくわからなくなるようなところがあってでも高い椅子に座った人が笛を鳴らすので僕は岸にUターンする そのうち僕は笛がどうにかしてくれ…

ねえねえお母さん

お母さん、ふしぎだったんだお母さんのかおにはいとみたいなのがあるよねおはなの所にさ ぼくにはそれがないんだ こないだ先生がぼくたちのかおとお父さんお母さんのかおはにてるって言ってたよ

アイキャッチ

剥き出しの滑らかな脚を見やる眼のリレー横顔のドミノ連なりを渡る小波

ギロチン

何ゆえ断頭台はあれほど高くに拵えられておるかと申しますればころりと落ちるひとのくびったまをうんとおおくの眼に映すためにございますえ、吊ったりもいたします

アフォーダンス

筋肉の一本一本をゆるゆると解いて僕が唇を寄せることをアフォードする

僕たちの失敗、か

やたらと書いてしまったので、時間と気持ちに余裕のある方だけお読みください。 世間知らずな自分に嫌気が差していた時期に、日経系列のサイトが発行しているNBonlineというメールマガジンを申し込んだ。知らない世界の話、というのはいつでも面白いもので、…

誇張法

三塁コーチャーはぐるぐると 大きな空を掻き回している

外に出す

ピストルで 頬打つ拳を外に出し チェーンソーで 鋸引く腕を外に出し 眼鏡でコンタクトで 双眼鏡で望遠鏡で もの見る眼を外に出す エンジンでモーターで 地べた這う足を外に出す ガス検知器で 鼻も外だ ヘッドホンで 耳も外だ マイクで喉も外に出して やはら…

遥か手前

生まれたての 嬰児のような 無造作な 動きを今も

味付け

インターネットでレシピ見て 母の教えと比べてしまふ わたしの舌は 少し しょっぱい

仰向け

俺が魚だったら 死んだときの姿勢だな と 思いながら寝る奴もいるのだな

私の発見

私という表記を見るたびに、どうしてこんな書き方をするのだろうと疑問に思いながらずっと放置していた。 シャワーを浴びていたら突然わかったのでメモしておく。 これはつまり認識論だ。 私たちの身体は、感覚器官からの信号を通じて外界と接触している。感…

花豆

僕は花豆を殻ごと食べる 彼女は花豆を 殻を外して食べる 僕だって 残った殻は 食べられない セミの抜け殻色してる

君が代

民主主義国家・日本において、その主権は国民にある。 君が代は 千代に 八千代に と歌うことは 我々一人ひとりが主であるようなこの国土が いつまでも安寧でありますように と祈りを捧げること そんな詭弁はどうだろう。

フェアネス

人は必ず奪う。 命を奪い合った人々はフェアネスを産んだ。 人は必ず奪う。 それを「罪」と呼ぶのが宗教である。 人は必ず奪う。 我々に必要なのは、原罪ではなくフェアネスである。

個人主義の陥穽

衆寡敵せず。 己のみを臣下とする独裁に、 勝るところがあるとすれば速度のみ。 連帯の仕方は、本当に出尽くしたのか。

ミラーニューロン

わたしたちは人を殺すことができる。 保身と服従は、共感よりも強い。

敬意とは何か

・表に現れた1の背後に、99の捨てられた可能性を見ること。・間断なく点検されるべきもの。

柔らかな手つきで

「メタメタ」というエントリで、こんなことを書いた。 言葉じゃ伝わらないよね、って頷きあってる人々は、いったい何を共有してるんだろうな? 表現力不足、語彙の貧困、言語万能主義という空想上の敵に一緒になって立ち向かう一体感、切り捨てて回収して終…

フォークナー/八月の光

初フォークナー。「ああ、きっと読まなければいけない作家なんだろうな。」 初めてそう思ったのは、たしか野崎歓の「フランス文学の扉」を読みながらのことだった。残念ながら名前は忘れてしまったが、あるフランス人の作家がフォークナーを読んだことで小説…

二人のY/二人目

見たこともなければ会ったこともなく、けれど自分自身のある恐れをもっとも具体的に体現している人物として、心の中に隣人として留め置かれるような人がいる。 友人から話に聞いたY君は、まさにそんな人だ。 彼は小説家志望の大学生だった。すでに何本か小…

二人のY/一人目

Yとは高校一年の時、同じクラスになった。どうして仲良くなったのかはよく覚えていない。 奇妙な笑い方をする男だった。目じりと口角のあたりにちょうど一つまみぶんの筋肉が盛り上がるような、訓練して身につけた顔面運動としての笑い、という印象を受ける…

子育てをしたことのない人間の

丸刈りにした頭を撫でさすりながら、馴染みのとんかつ屋に入った。 座敷席には首が据わったばかりとおぼしき赤ん坊を連れた若夫婦が座っていて、二人揃ってメニューを眺めている。僕はその隣に座る。赤ん坊がぐずるのは別に構わないから。 ロースかつ定食を…

お腹いっぱい

寝起きの数分間とともに、満腹の際、知的パフォーマンスの低下が問題視されないことに関しては、全世界的な同意が成立していると言っても過言ではないだろう。 また、上記の二条件に並び(あるいはその遥か上位に位置づけられるものとして)酩酊状態も序せら…

「メタメタ」

そろそろ始めようか。 何を? 書くことを、とでも言うつもりだろ。 まるで聞き飽きたといわんばかりの口ぶりだな。 聞き飽きないほうがどうかしてるよ。 茂木さんが「飽きられるのは人間だけ」って言ってたな。 茂木さんが言えばそれは正解なのか? お前が言…

歌う/詠うヴォイス

「倍音」を生み出す文章術としてのVoiceについて語ろうとしているのだけれど、その拠って来るところの音楽的な「倍音」が聞こえない。もしやこれは致命的な欠陥なのでは……戦々恐々としながらも手掛かりを求めて内田先生の関連文章を漁り、その指し示す辺りを…